TOKIMEKI

 私はもう少しでそういおうとした。主人も今はもう五十に間もない年頃で、むしろ背の低い、まる/\と肥えた、極く鷹揚な、見た眼にも温良そうな男であるが……変ったのはかれや私の頭髪ばかりではない、それの店の内部も外観も、殆ど昔のおもかげを止めない位に変ってしまった。何時どこが何うなったということはいえないが、何度か普請をやり直して、外観もよくなったと同時に、内部もずっと広くなり綺麗にもなり、すべての設備も段々とよくなった。散髪料にしても、二十銭か二十五銭位であったのが、今はその三倍にも四倍にもなった。髪の刈り方髯の立て方の流行にも、思うに幾度かの変遷を見たことであろう。わけてそこに立ち働く若い理髪師達の異動のはげしさはいわずもがな、そこの主人の細君でさえ、中頃から違った人になった。多分前の人が病気で亡くなりでもしたのであろう。又そこへ来る常客の人々の身の上にも、それこそどんなにか、色々の変化があったことだろう。

 姉、伯父母、従兄弟姉妹、此等の人々の俤を思ひ浮べて、此人には斯う、彼の人にはあゝと一人一人に話す材料や話方等まで想像して、何だか恋人にでも遇ふ様な懐しい胸のわく/\する思で居た。
 今一つ彼をして此夏京都の生活を楽しく思はせた理由がある。友のSが七月下旬東京を出発して信濃飛騨を旅し、美濃路を経て八月上旬京都に出て、二週間ばかり滞在しようといふ予定であつたので、是を機会にして、伊勢、尾張、近江、播磨などに夫々帰省して居る友達が同時に京都に落合はう、藤村の「春」の人物が、富士山麓の吉原の宿に東からと西からと落合つた様に、各方面から同時に京都に落合つたらどんなに心ゆくことであらうと云ふ様なロマンチックな空想がそれであつた。兎に角さういふことに定めて、幸ひ、平三の親類の家が宿屋であるので、彼から手紙で室のことや宿料のことまでも交渉して置いた。

 父親は始めて手を休めて不思議そうに為吉の顔をしげしげと眺めました。そして、
「白山が見えりゃ何だい?」と優しく言いました。
 父親はこの頃為吉が妙にふさいでばかりいるのが合点がいかないのでした。為吉はまだ八つでしたが、非常に頭のよい賢こい子で、何かにつけて大人のような考を持っていました。神経質で始終何か考えてばかりいる子でした。
 為吉はうつむいて前垂の紐をいじっていて暫く答えませんでした。何か心の中で当てにして来たことが、ぴったり父の心に入らないで、話の気勢をくじかれたような気がしたのでした。そしてまだ自分の思うていたことを言わない先に、
「浜に誰かおったか?」と父親に尋ねられて、いよいよ話が別の方へそれて行くのをもどかしいように情ないように感じました。
「誰もおらなんだ。」
「お前一人何していたい?」
「沖見とったの。」

 
 
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